私は、どんな物事に取り組む際も、その物事に関する分析・考察を行い、判断の基準や選び方の仮説を構築します。それによって、その物事について根拠を持って判断・選択できると考えているからです。
それは2021年に受けた歯科矯正についても例外ではなく、歯科矯正そのものの業界や市場、その中のプレイヤーについても分析を行いました。
マウスピース歯科矯正の世界No1サービス・インビザラインを提供するAlign Technology社の企業分析、今後の将来性予測を紹介したいと思います。
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インビザラインの概要
インビザライン(Invisalign)は、アメリカのNASDAQ市場に上場しているAlign Technology社が展開する業界1位の通院型マウスピース矯正ブランドです。
クリアアライナーと呼ばれるマウスピースを歯に被せることで歯科矯正を実現するその手法は、従来のワイヤー矯正治療のみだった歯科矯正業界に大変革をもたらしました。
2017年まではマウスピース矯正に関する特許を保持して市場の独占を続け、特許が切れた後も24.1億ドルの市場規模に対して21億ドルの売り上げをあげ、なんと85%以上ものマーケットシェアを実現しています(2020年)
インビザラインのサービス内容
インビザラインのサービス内容としては、以下のようにマウスピース矯正をワンストップで提供するソリューションを提供しています。これらを歯科医が導入してマウスピース矯正を進めるのです。
そのため、行きつけの歯科医で歯科矯正について相談するとまずインビザラインを推奨されることが多くなるはずです。
- 診察・歯型のスキャン:スキャン装置をAlign Technologyが提供しドクターが実施
- 治療計画立案:専用ソフトウェアをAlign Technologyが提供
- マウスピース設計:専用ソフトウェアAlign Technologyが提供
- マウスピース製造:Align Technologyが製造
- マウスピースを用いた治療:ドクターが実施
インビザラインの沿革・歴史
インビザライン(Invisalign)は、アメリカのNASDAQ市場に上場しているAlign Technology社が展開する業界1位の通院型マウスピース矯正ブランドです。
2017年まではマウスピース矯正に関する特許を保持して市場の独占を続け、特許が切れた後も24.1億ドルの市場規模に対して21億ドルの売り上げをあげ、なんと85%以上ものマーケットシェアを実現しています(2020年)
年 | 沿革 |
---|---|
1997年 | スターフォード大学MBAの卒業生であるZia Chishti、Kelsey Wirthによりアメリカで創業 |
1997年 | マウスピース矯正に関する一連の特許を出願 |
1998年 | インビザラインがFDA(米国食品医薬品局)によって医療品として承認 |
1999年 | アメリカでインビザラインが販売開始 |
2001年 | NSDAQ市場に上場して株式を公開、ヨーロッパでインビザラインが販売開始 |
2002年 | 日本でアライン・テクノロジー・ジャパン株式会社が設立 |
2006年 | 日本でインビザラインが販売開始 |
2015年 | 患者数が全世界で300万人を突破 |
2018年 | アタッチメントに関する特許が切れ、他社が参入開始 |
2020年 | 患者数が全世界で900万人を突破 |
インビザラインのビジネスモデル
インビザラインのビジネスモデルを図解すると以下の通りです(あくまで筆者が分析したものです)。
歯医者に対して、スキャン装置・治療計画・マウスピースなど歯科矯正に関する器具やソフトウェアをワンストップで提供し、歯医者から支払われる利用料金がAlign Technologyの売上になります。

後述しますが、こうしたあらゆる器具やソフトウェアを提供していることは、強みにもなり、一方で歯医者側からすると導入の初期コストが大きくなるであろう弱みにもなり得ると考えています。
インビザラインの強み・独自性
インビザラインの強み・独自性としては以下が挙げられると考えています。
- 歯科矯正に関する器具・ソフトウェアをワンストップで提供
- 結果としての質の高い歯科矯正サービス
- マウスピース歯科矯正のパイオニアとしてシェアNo1の実績とノウハウ
1つずつ説明していきましょう。
歯科矯正に関する器具・ソフトウェアをワンストップで提供
まずインビザラインの強み・独自性の1つ目は、何よりも歯科矯正に必要な器具・ソフトウェアを自社でワンストップで提供していることでしょう。これによって歯科医はインビザラインを導入すればそれだけで歯科矯正サービスを提供でき、かつ他社のサービスの大きな参入障壁にもなるはずです。
結果としての質の高い歯科矯正サービス
インビザラインの強み・独自性の2つ目は、結果として質の高い歯科矯正サービスを提供できているであろうことです。インビザラインでは、自社のスキャン器具によってスキャンされた歯の構造が、3Dシミュレーションソフトによって再現されます。その内容がCAD/CAMを用いた光造形技術によって、アライナー(マウスピース)に正確に再現されるのです。
マウスピース歯科矯正のパイオニアとしてシェアNo1の実績とノウハウ
インビザラインの強み・独自性の3つ目は、マウスピース矯正のパイオニアとして長年の実績とノウハウがあることです。1999年にサービスを開始してから2018年に特許が切れるまでは、マウスピース矯正は実質的にインビザラインの一社独占でした。今でこそ他社の参入が相次いでいますが、20年の間に築いた先行者優位はそう簡単には崩れないはずです。
インビザラインの弱み・脅威
一方で、インビザラインの弱みとしては以下が挙げられると考えています。
- 導入に必要な初期費用が高額と予想される
- 特許切れ等により他社の参入が相次いでいる
- 新しい矯正のあり方(オンライン型マウスピース矯正)の登場
1つずつ説明していきましょう。
導入に必要な初期費用が高額と予想される
まずインビザラインの弱み・脅威の1つ目は、歯科矯正に必要な器具・ソフトウェアをワンストップで提供しているからこそ、歯医者側が導入するのに必要な初期費用が高額と予想されることです。
歯医者は歯科矯正を受ける患者が増えないとその費用を回収できないですが、歯科診療所の数は2020年に68,291ヶ所と、その数はコンビニよりも多いとも言われています。歯医者としても競合が増えて競争環境が激化する中で、高額な初期費用を回収できる見込みが立たず、導入を躊躇してしまうことは容易に想像されます。
特許切れ等により他社の参入が相次いでいる
インビザラインの弱み・脅威の2つ目は、1998年に取得したマウスピース矯正に関する特許が2018年に切れて他社の参入が相次いでいることです。
特許が切れるまでの20年間は、特許の存在が何よりも参入障壁となり市場を実質的に独占できていました。しかし2018年のに特許が切れると、3Dプリンターなどの最新技術によるマウスピース製造の費用低下も後押しし、競合企業の参入が相次いでいると考えられます。
また、こうした新技術によって歯科矯正の工程が刷新される中では、インビザラインがこれまで歯医者に導入してきた器具の老朽化もイノベーションのジレンマになるのではないでしょうか。
新しい矯正のあり方(オンライン型マウスピース矯正)の登場
インビザラインの弱み・脅威の3つ目は、オンライン型マウスピース矯正が登場していることです。
オンライン型マウスピース矯正とは、来院不要、又は初回のみの来院で、LINEアプリなどを通じて矯正の進捗管理やサポート、相談受付を行うマウスピース矯正です。海外では上場もしている「Smile Direct Club」、日本では「Oh my teeth」「hanaravi」などのスタートアップ企業が続々と参入しています。

事業者側としてはドクターの稼働が低くなって費用を抑えられ、利用者としては来院の手間が不要で低価格でマウスピース矯正が受けられるという、双方にメリットがあるモデルです。こうした新規参入にどう対応するかは間違いなく経営のいちイシューになっていることでしょう。
インビザラインの今後・将来性予測
最後に、インビザライン、そしてAlign Technology社の今後について予測したいと思います。
- インビザラインが対象とする歯科矯正の市場規模は拡大
- 競合が参入するものの、歯科矯正のスタンダードとして堅調な成長を続ける
インビザラインが対象とする歯科矯正の市場規模は拡大
まず市場全体について、インビザラインが対象とする歯科矯正の市場規模は拡大すると考えています。
人々の美容意識の増加、経済成長および歯科矯正の低下価格化によるターゲット層の拡大が主な理由です。特にグローバルに事業を展開するインビザラインにとっては、発展途上国の経済成長によって歯科矯正が広まり市場の裾野がゆっくりと、しかし確実に拡大することが予測されます。
競合の参入により成長は鈍化
市場全体は緩やかに拡大すると見込まれる中で、インビザライン自体の業績はどのように予測されるでしょうか。
当初私は競合は増えているものの、インビザラインは歯科矯正のスタンダードとして堅調な成長を続けると予測していましたが、実際の決算を見てみると既に足下で厳しい数字が上がっていることがわかりました。
一番左のアメリカ市場も、そして真ん中のグローバル市場もどちらもマイナス成長になってしまっているのです。

基本的に、ある程度経済発展したアメリカ市場は競合から防衛する守りの市場、そして今後の新市場になるであろう発展途上国は攻めの市場になると思いますが、どちらも思ったよりも成長が低下している印象です。
こうした数字を見てみると「低価格の競合に市場を食い荒らされている影響が足下でも出始めている」と言えると思います。私の予測とは全く違ったので、こうして数字で見るとやはり面白いなぁと感じます。
まとめ
以上、インビザライン、そして運営会社のAlign Technologyについて企業分析をさせていただきました。
歯科矯正を検討している方だけでなく、何事も分析・考察することの面白みが伝わっていたら嬉しいです!