通院型マウスピース矯正とは?その特徴や歴史、ビジネスモデルを解説

2021年に私はオンライン型のマウスピース矯正を行いましたが、マウスピース矯正にはオンライン型のものに加えて、通院型の「通院型マウスピース矯正」が存在します。

通院型にはオンライン型にはないメリットが存在するだけでなく、通院型マウスピース矯正の中にも、新しいものや古いものが存在し、特許を取り巻くその業界の移り変わりはビジネス的に見ても非常に面白く示唆に富んでいます。

そこで今回は通院型マウスピース矯正の特徴や、その歴史を紹介したいと思います。

通院型マウスピース矯正の位置付け

まずは歯科矯正全体における通院型マウスピース矯正の位置付けからご説明したいと思います。

以下の図のように、歯科矯正にはまず「ワイヤー矯正」と「マウスピース矯正」があり、「マウスピース矯正」の中に今回ご説明する「通院型マウスピース矯正」と「オンライン型マウスピース矯正」がある形です。

そして「通院型マウスピース矯正」も、第1世代から第3世代まで分類することができます。この分類はその背景が非常に面白いので楽しみにしていてください。

それではまずは「ワイヤー矯正」と「マウスピース矯正」の違いから説明していきましょう!

ワイヤー矯正とマウスピース矯正の違い・比較

まずワイヤー矯正とマウスピース矯正の違いやメリットデメリットの比較は以下の通りです(詳しくはこちらの記事に書いているのでご覧ください。)。

ワイヤー矯正マウスピース矯正
概要歯にワイヤーを通したブラケットという装置をつけ、ワイヤーを通して力をかけることで少しずつ歯を移動させて矯正を行うアライナーと呼ばれる歯型に合わせた透明なマウスピースを装着することで少しずつ歯を移動させて矯正を行う
歴史20世紀の初頭にエドワードアングル博士が矯正理論を発表して誕生1997年、インビザラインが一連の特許を出願して誕生
適応範囲どんな歯並びにも対応歯並びによっては対応できない
値段・費用100万円程度が相場30万円〜60万円が相場
見た目ワイヤーが目立つ透明で目立たない
装着時間期間中はずっと装着が必要1日20時間以上の装着が必要
痛み一般的には痛いとされる比較的痛みが少ない
治療期間1年〜2年程度数ヶ月〜1年程度
通院頻度1ヶ月に1回程度2ヶ月に1回程度(通院不要のものも)
治療の質の決め手歯科医師の技量や経験に依存すると考えられるスキャン器具などを用いて平準化されていると考えられる
ワイヤー矯正とマウスピース矯正の比較と、メリットデメリット

ワイヤー矯正は1903年にエドワード・アングル博士が歯科矯正に関する理論を発表したことで始まった比較的新しい治療法ですが、マウスピース矯正は20年ほど前の世紀末に考案された最新の歯科矯正方法です。

私自身がマウスピース矯正に決めた理由は、新しいものが好きというのもありますが、何よりも治療の質の決め手が要因でした。歯科医師ワイヤーを用いてブラケットを調整して矯正を行うワイヤー矯正の質は、歯科医師の技量や経験に依存すると考えられます。一方でマウスピース矯正は、歯型のスキャンやマウスピース製造が機械を用いて行われるので、歯科医師の技量によらず一定の品質のサービスを提供することができるであろうと考えたのです。

通院型マウスピース矯正とオンライン型マウスピース矯正の違い・比較

そして、マウスピース矯正には「通院型マウスピース矯正」、そして「オンライン型マウスピース矯正」の2つがあり、今回のご紹介するのは「通院型マウスピース矯正」です。

通院型マウスピース矯正(従来型)オンライン型マウスピース矯正(最新型)
歴史1997年、インビザラインが一連の特許を出願して誕生2010年代にインビザラインの特許が切れたことで誕生
代表的なブランドインビザライン(Invisalign)、
クリアコレクト、キレイライン
日本:Oh my teeth、hanaravi
アメリカ:Smile Direct Club
値段・費用全体矯正:80〜100万円
部分矯正:20〜80万円
全体矯正:60万円程度
部分矯正:30万円程度
対応しているクリニック多い少ない
歯型のスキャン歯医者で実施IoTスキャンデバイスを用いて自宅で実施
通院頻度2ヶ月に1回程度初回のみ
医師への相談来院時に実施LINEやビデオ通話で24時間対応
マウスピース矯正の2つの種類

新しいもの好きな私はオンライン型マウスピース矯正を選びましたが、通院型マウスピース矯正は対応しているクリニックが全国に多く展開されており、歯科医院に通院しながら矯正を進められる安心感があると思います(私がオンライン型マウスピース矯正を選んだ理由についてはこちらの記事で解説しています)。

通院型マウスピース矯正の特徴

2つのマウスピース矯正の違いがわかったところで、いよいよ通院型マウスピース矯正の特徴を紹介していきたいと思います。

矯正の流れ

従来の通院型マウスピース矯正の流れは以下の通りです。歯医者に来院し、スキャン装置を用いてマウスピースを作成し、その後も2ヶ月に1回程度来院しながら矯正を行なっていく形になります。

通院型マウスピース矯正の流れ
  1. 診察歯型のスキャン:スキャン装置を用いて歯医者で実施(来院が必要)
  2. 治療計画立案:スキャン結果を用いて歯医者で実施
  3. マウスピース設計:専用ソフトウェアを用いて歯医者で実施
  4. マウスピース製造:歯医者から専門業者に発注して製造
  5. マウスピースを用いた治療:歯医者で実施(2ヶ月に1回程度来院が必要)

「定期的な来院が必要」というのは、人によってメリット・デメリットどちらにも感じ得るとは思います。一方で来院の面倒さから3人に1人がドロップアウトしてしまう状況もあるようです(Oh my teethのホームページより)。

代表的なブランド

通院型マウスピース矯正の代表的なブランドとしては、インビザライン(Invisalign)、クリアコレクト、キレイラインなどが挙げられます。

インビザラインクリアコレクトキレイライン
歴史1997年に設立されたアメリカのブランド
特許を活用し20年に渡り市場を独占
(第1世代)
2006年に設立されたアメリカのブランド
インビザラインと訴訟も
(第2世代)
2017年に設立された国内ブランド
3Dプリンタなど最新技術を活用
(第3世代)
値段・費用約40万円~100万円約16万円~60万円(税別)約21万円~38万円(税別)
治療範囲奥歯を含む全体奥歯を含む全体主に前歯上下12本
治療期間1~2年程度3ヶ月~5年以内5ヶ月~1年3ヶ月程度
通院頻度2ヶ月〜3ヶ月に1回通院1ヶ月〜3ヶ月に1回通院2週間~1ヶ月に1回通院
対応しているクリニック非常に多い(100カ国以上で展開)多い(アメリカでシェアNo2)多い(全国123院)
通院型マウスピース矯正の代表的なブランド・比較

インビザライン(Invisalign)(海外)

インビザライン(Invisalign)は、アメリカのNASDAQ市場に上場しているAlign Technology社が展開する業界1位の通院型マウスピース矯正ブランドです。

以下のようにマウスピース矯正をワンストップで提供するソリューションを提供しており、それを歯科医が導入してマウスピース矯正を進める形となります。そのため、行きつけの歯科医で歯科矯正について相談するとまずインビザラインを推奨されることが多くなるはずです。

インビザライン(Invisalign)のマウスピース矯正の流れ
  1. 診察・歯型のスキャン:スキャン装置をAlign Technologyが提供しドクターが実施
  2. 治療計画立案:専用ソフトウェアをAlign Technologyが提供
  3. マウスピース設計:専用ソフトウェアAlign Technologyが提供
  4. マウスピース製造:Align Technologyが製造
  5. マウスピースを用いた治療:ドクターが実施

2017年まではマウスピース矯正に関する特許を保持して市場の独占を続け、特許が切れた後も24.1億ドルの市場規模に対して21億ドルの売り上げをあげ、なんと85%以上ものマーケットシェアを実現しています(2020年)

インビザラインの強みや弱み、将来性についてはこちらの記事で分析・考察しています。

クリアコレクト(海外)

クリアコレクトは、スイス証券取引所に上場しているストローマングループが展開する通院型マウスピース矯正ブランドです。

ストローマングループ(Straumann Holding AG)はデンタルインプラントメーカーとして世界シェアNo.1の実績を誇るグローバル企業です。創設者のReinhard Straumann氏は元々スキージャンプ競技者で競技中のケガから骨の構造や加齢に伴う変化に興味を持ち、インプラント治療事業を始めたという経緯があります。

以下のように、ドクターから提供されたデータをもとにクリアコレクトが治療計画の立案やマウスピース設計を行い、それを元にしてドクターが治療を行っていく形になります。

クリアコレクトのマウスピース矯正の流れ
  1. 診察・歯型のスキャン:他社のスキャン装置を用いてドクターが実施
  2. 治療計画立案:ドクターから提供されたデータを元に専用ソフトウェアを用いてクリアコレクトが実施
  3. マウスピース設計:ドクターから提供されたデータを元に専用ソフトウェアを用いてクリアコレクトが実施
  4. マウスピース製造:クリアコレクトが製造
  5. マウスピースを用いた治療:ドクターが実施

クリアコレクトのドクター用製品カタログを参照して作成

インビザラインは「診察・歯型のスキャン」「治療計画立案」「マウスピース設計」についてもドクターが使う専用装置やソフトウェアを提供しています。そのため初期費用が大きくなると考えられるため、歯科医側としてはクリアコレクトは初期導入コストが小さいというメリットがあり、それを強みにしていると推察されます。

クリアコレクトの強みや弱み、将来性についてはこちらの記事で分析・考察しています。

対応しているクリニック

通院型マウスピース矯正に対応しているクリニックの数は、オンライン型マウスピース矯正に比べて圧倒的に多いです。

通院型マウスピース矯正は1997年に誕生して20年以上の歴史になりますが、オンライン型マウスピース矯正は2010年代に誕生した比較的新しい矯正方法です。そのため、オンライン型マウスピース矯正の提携クリニックはまだ大都市を中心に展開されているのが実情です。

通院型マウスピース矯正(従来型)オンライン型マウスピース矯正(最新型)
歴史1997年、インビザラインが一連の特許を出願して誕生2010年代にインビザラインの特許が切れたことで誕生
対応しているクリニック多い少ない
マウスピース矯正の2つの種類

キレイライン(日本)

キレイラインは、日本発で10ヶ国に展開するSheepMedicalグループが展開する通院型マウスピース矯正ブランドです。

医師免許を取得後、美容外科・医療関連脱毛クリニックの設立に携わった松本直純氏が2017年3月に立ち上げた、株式会社デンタルアシストが前身となって立ち上げられた歯科矯正医療サービスを提供する会社です。国家資格保有歯科技工士が日本国内でマウスピースを製造している点は、海外発の他ブランドと大きく異なる点でしょう。

キレイラインのマウスピース矯正の流れ
  1. 診察・歯型のスキャン:ドクターが実施
  2. 治療計画立案:ドクターから提供されたデータを元にキレイラインが実施
  3. マウスピース設計:ドクターから提供されたデータを元にキレイラインが実施
  4. マウスピース製造:3Dプリンターを用いてキレイラインが製造
  5. マウスピースを用いた治療:ドクターが実施

ホームページによると、キレイラインは導入時にクリニックが初期費用を払う必要がないとのことです。クリアコレクトが強みにしているであろう初期コストの小ささをより突き詰めて、独自のポジショニングを築いていると考えられます。

キレイラインの強みや弱み、将来性についてはこちらの記事で分析・考察しています。

歴史

そして通院型マウスピース業界の歴史は、これらのブランドが密接に関わって成り立っています。簡単に説明すると、インビザラインが特許によって20年間市場を独占していましたが、2017年に特許が切れて現在は新規参入が相次いでいる状況です。

以下のように、第一世代〜第三世代に分類してみるとわかりやすいかなと思います。

通院型マウスピース業界の歴史
  • 1997年〜2017年:第1世代のインビザラインが特許を用いて市場を独占
  • 2006年〜:クリアコレクトが第2世代として新規参入、インビザラインとは訴訟も
  • 2017年〜:インビザラインの特許が切れたことをきっかけに、低価格の新規参入プレイヤーが第3世代として続出

ワイヤー矯正しかなかった歯科矯正業界にイノベーションをもたらしたインビザラインですが、特許が切れた今、自身が新規参入に脅かされているというのを見ると、世の中やビジネスは本当に面白いなと思ったりします笑。

値段・費用

通院型マウスピース矯正の値段・費用としては、全体矯正が80〜100万円、部分矯正が20〜80万円が大体の相場です。とはいえ幅がありすぎてこれだとよくわからないと思うので、ブランド別に目安の値段を並べると以下の通りです。

インビザラインクリアコレクトキレイライン
歴史1997年に設立されたアメリカのブランド
特許を活用し20年に渡り市場を独占
(第1世代)
2006年に設立されたアメリカのブランド
インビザラインと訴訟も
(第2世代)
2017年に設立された国内ブランド
3Dプリンタなど最新技術を活用
(第3世代)
値段・費用約40万円~100万円約16万円~60万円(税別)約21万円~38万円(税別)
通院型マウスピース矯正会社の値段・費用の目安

新しい第3世代は値段や費用が安く、歴史が古い第1世代は値段や費用が高いことが見て取れると思います。これこそイノベーションや進化の歴史という感じがしてとても面白いです。

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