ICL手術のリスク・危険性の1つとして「角膜内皮細胞が減少する」というものがあります。
Youtubeでは「ICLで角膜内皮細胞が1000減った!」という動画も上がっているようで、不安になる方も多いことでしょう。そんな疑問に関して、眼科医の先生に伺ったファクトを交え、しっかりとお答えしたいと思います。
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東大・海外大を卒業後、戦略コンサルで勤務していた「チルbot」です!メガネ・コンタクト歴は20年以上、昼にはドライアイで目がカピカピでしたが、医師の友人や眼科の先生へのヒアリングを経て2020年にICL手術を実施、視力は0.03から1.5に回復し、夢の裸眼生活を実現しました。20代最高の投資・ICL手術について実体験から解説していきます。
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角膜内皮細胞とは
結論から申し上げると、角膜内皮細胞とは角膜の一番内側の膜を形作っている細胞で、角膜の透明度を保つ役割を果たしています。
分かったようで分からないと思うので、まずは角膜とは何かからしっかり説明させてください。
角膜の役割と構造
角膜とは、眼球の一番外側にある透明な膜で、5つの層から成り立っています。「くろめ」とも呼ばれる部分です。ものを見るために眼球に光を取り入れる役割と、水晶体とともにピントを調節する役割を担っています。
(ここまでの説明で、角膜を直接削るレーシックは怖いと直感的にわかるのではないかと思います)

角膜内皮細胞の機能
そして角膜内皮細胞とは、5層から成る角膜のうち、最も内側にある「角膜内皮」と呼ばれる層を構築する細胞です。六角形をした角膜内皮細胞が規則的に配列され角膜内皮を埋め尽くしているのです。
角膜は水分を吸収しやすく、水分を過度に吸収すると濁ってしまうのですが、目の中には水分が流れています。この水分が角膜に侵入しないよう、ポンプのように汲み出す役割を担っているのが角膜内皮細胞です。
角膜内皮細胞が減少するとどうなる?ICLにも影響が?
そのため角膜内皮細胞が過度に減少すると、角膜が水分を吸収してむくんで濁ってしまい、角膜内皮浮腫などの病気の原因となります。生まれつき少ないなど個人差は生じますが、だいたい3000個/mm2程度が正常値とされています。
また角膜内皮細胞数が減少すると、以下のような制限・症状が発生します。
- 3000個/mm2:正常
- 2200個/mm2:全年代でICL手術が不可能に
- 2000個/mm2:コンタクトレンズの使用を中止
- 1500個/mm2:レーシックによる近視矯正手術が困難に
- 1000個/mm2:角膜の白濁
- 500個/mm2:水疱性角膜症を発症
(※白内障手術の際は角膜内細胞が数百個減少するので、少ないと白内障手術が受けられないことも)
そうです、意外と知られていませんが(知らなければいけないのですが)コンタクトレンズの使用期間には限界があるのです。これはコンタクトレンズの利用が角膜内皮細胞に非常に悪影響を与えることが理由なのですが、後述させてください。
角膜内皮細胞が減少する原因
角膜内皮細胞とその役割、減少によって生じる制限・症状について理解したところで、角膜内皮細胞が減少する原因について、以下それぞれ解説します。
- 加齢による自然減少
- コンタクトレンズの長期使用による酸素供給量の減少
- 眼の外傷や手術の影響
①加齢による自然減少
角膜内皮細胞は生まれた時が最も数が多く、加齢とともに減少してゆきます。決して増えることはなく、減少した角膜内皮細胞を再生する技術は現在存在していません。(他者の角膜内皮細胞層を移植する手術は存在します)
年齢ごとの角膜内皮細胞数の目安は以下の通りです(単位はcells/mm2)。
危険値 | 正常値 | 安心な値 | |
---|---|---|---|
20代 | 2500個 | 3000個 | 3500個 |
30代 | 2250個 | 2750個 | 3250個 |
40代 | 2000個 | 2500個 | 3000個 |
50代 | 1750個 | 2250個 | 2750個 |
②コンタクトレンズの長期使用による酸素供給量の減少
角膜への酸素供給量が減ると、角膜内皮細胞が死滅して減少します。
コンタクトレンズは酸素供給量に大きく影響する
角膜には酸素を送り届ける血管が存在していないので、角膜内皮細胞は空気中から酸素を、涙から栄養分を取り入れています。しかし、これらの補給を大きく阻害するものがあります、それはコンタクトレンズです。
角膜は、コンタクトレンズを装着している時は、レンズに含まれた水分や眼とレンズの間にある涙から酸素を取り込んでいます。しかし乾燥するとコンタクトレンズと角膜が直に接して蓋がされてしまい、角膜が酸欠になってしまうのです。
コンタクトが乾燥した状態で使用を続けることがいかに危ないことか分かっていただけたでしょうか。(まばたきのたびにずれて涙や酸素を取り込めるハードコンタクトレンズよりも、角膜にフィットするソフトコンタクトレンズの方が酸素供給量に大きな影響を与えるとされています)
睡眠中のコンタクト着用は角膜内皮細胞に大ダメージ
さらに危険なのは、コンタクトを着用したまま睡眠することです。
コンタクトレンズを装着したまま寝てしまうと、睡眠中はまばたきがないのでコンタクトは乾燥してずっと目に張り付いた状態になります。つまり睡眠中はずっと角膜内皮細胞が酸欠となってしまうため、大ダメージを受けるのです。
コンタクトは正しい利用を心がけましょう
ICLを受けるまでの約10年間のコンタクト生活で、私も誤ったコンタクトレンズの使い方を繰り返してきました。目が乾燥しても無理やり使用を続けたり、寝落ちしてつけてままになってしまったり、今思うと本当に恐ろしいことをしていたなと思います。
最悪の場合失明に至ることもあるというリスクを忘れず、コンタクトレンズは絶対に正しい利用を心がけましょう。コンタクトレンズの使用目安時間はハードレンズは14~16時間以内、ソフトレンズは12~14時間以内とされていますが、目に負担を感じたらすぐに取り外すようにしてください。
これらの理由よりコンタクトレンズは角膜の酸素供給量に大きな影響を与えるため、一生利用できるわけではなく期間に制限があるのです。
③眼の外傷や手術の影響
直接の目への外傷や、手術による負担なども角膜内皮細胞を減少させる一因となります。例えば前述したように、白内障手術の際は角膜内細胞が数百個減少するので、角膜内皮細胞が少ないと手術を受けられないこともあるのです。
それではICL手術、レーシックはどのような影響を与えるのか、気になりますね。
ICL手術の角膜内皮細胞への影響は限定的
角膜内皮細胞が減少する原因の1つとして「眼の外傷・手術」があると述べましたが、ICL手術はどのような影響があるのでしょうか。ICL手術をすると角膜内皮細胞数が急激に減少してしまい、将来白内障の手術を受けることはできなくなるのでしょうか?
結論から申し上げると、ICL手術の角膜内皮細胞への影響はあります。しかし正しい理解をしないまま「ICLはやはり危険だ!やめておこう!」と誤った判断をしないよう、「誰かが言っていた」ことだけでなく、しっかりとした「ファクト(事実)」を参考にしましょう。
ICL手術と角膜の関係
まずはICL手術と角膜内皮細胞の関係についてご紹介します。以下の図のように、現在大多数である「後房型ICLレンズ」は、角膜を3mmほど切開して、眼球の後ろ側にある「後房」と呼ばれるスペースにレンズを挿入するものです。
つまり角膜とレンズが直接接触することはなく、レンズを挿入するために角膜を3mm切開することのみが角膜に与える影響となります。(この切開による影響は非常に限定的です、詳しくは後述します。)

そもそも角膜内皮細胞が十分でなければICL手術は受けられない
そして、そもそも角膜内皮細胞が十分ではないとICL手術を受けることは許されません。具体的にはICLレンズの製造会社・スターサージカル社のガイドラインによって 以下のような基準が定められています。
以下の患者には慎重に適用する
(2) 角膜内皮細胞密度が下記の表に示した値を下回る患者(単位はcells/mm2)
21〜25歳:2800個
26〜30歳:2650個
31〜35歳:2400個
36〜45歳:2200個
ICL手術には近視の強さや年齢など様々な制限が存在するため、事前検査で入念に検査を行いますが、角膜内皮細胞もその1つなのです。そのため、角膜内皮細胞が少ない状況でICL手術を受けてトラブルになるということはあり得ません。(これがレーシックだと起き得て前例も多数あることは後述させてください)
ICL手術が角膜内皮細胞に与える具体的な影響
上記のようにICL手術が角膜に与える影響は非常に限定的ですが、それでも心配な方のためにどんな影響があるかご説明したいと思います。以下のとおり手術時と手術後の2つの影響がありますが、前者の影響はわずかで、後者についてはファクトすら存在していない形になります。
- 手術時(ICLレンズ挿入に際する角膜の切開):わずかに影響あり(手術時に平均3%程度が減少)
- 手術後(ICLレンズが眼球内の水の循環を阻害することによる酸素供給量の減少):ファクトはなし
それぞれ説明していきたいと思います。
①ICL手術時の影響:ICLレンズ挿入に際する角膜の切開
ICL手術の角膜内皮細胞への影響の1つ目は、「手術時のICLレンズ挿入に際する角膜の切開が与えるもの」です。
ICLレンズは角膜と直接接触しないと述べましたが、手術時にレンズを挿入する際は角膜に約3mm切れ目を入れるため、角膜内皮細胞を傷つけることになります。これによって角膜内皮細胞がわずかに減少し、むさしドリーム眼科の資料によるとその割合は約3%とのことです。
通常の場合、手術時に平均で約3%の内皮細胞数減少が見られますが、その後は安定します。
引用:「手術のリスクと予測される合併症」より
つまり20代後半で角膜内皮細胞が2600個/mm2あった場合、ICL手術によって
2600 × (3/100) =78個/mm2
の角膜内皮細胞が減少する可能性があり、結果として2522個/mm2程度になるということです。コンタクトレンズの利用を続けると加速度的に継続して減少することを考えると影響は大きくないということが分かるかと思います。
②ICL手術後の影響:レンズが眼球内の水の循環を阻害することによる酸素供給量の減少
ICL手術の角膜内皮細胞への影響の2つ目は、手術後にレンズが眼球内の水の循環を阻害することによって起こるものです。眼の中にICLレンズを挿入すると、眼球内の水の循環が阻害され、結果として酸素供給量が減少するため角膜内皮細胞が加速度的に減少するのではないかということがYoutubeなどで語られているようです。
こちらの真偽については、山王病院アイセンターの資料、そしてICLレンズが眼球内の水の循環を阻害するか、という2つのファクトから判断できるので説明させてください。
ファクト①:山王病院アイセンターの資料
ICL手術後に急速に角膜内皮細胞が減少していれば、ICL手術が角膜内皮細胞に影響を与えることがわかります。これについては東京の眼科・山王病院アイセンターの資料に以下のようなチャートがあったので引用します。
ICL手術を受けてからの経過年数ごとに角膜内皮細胞数がどのように変化したかを700名ほどの症例を元にデータ化したものですが、急速な減少は存在せず加齢とともにゆるやかに減少していることがわかるでしょう。つまり手術後の角膜内皮細胞の減少は加齢による自然減少と同程度なのです。

ICLは目の中に移植するため、角膜を透明に保つ細胞に術後変化がないことが重要です。通常20~30歳の成人では、この細胞は2800~3000前後が正常で、加齢に伴い数%減少していきますが、ICLを入れたことによる急激な細胞減少はみられず、長期的に安全であるといえます。
引用:『角膜内皮細胞密度の変化』より
とも書かれています。
ファクト②:ICLレンズの眼球内の水循環への影響
こちらについてはICLの歴史を振り返るとよく理解できるかと思います。
1980年代〜90年代から用いられていたICLレンズでは、目の中に埋め込まれたレンズが目の中の水の流れを妨げてしまい、約1~2%の確率で白内障や緑内障の術後合併症を誘発してしまっていました。
しかしこの課題はレンズ中央部に極小の穴を空けることで、目の中の水の循環を健全に保つことができる「ホールICL」の開発によって解決されました。ホールICLは2007年に初めて用いられ、それから世の中のICL手術のほぼ全てはホールICLを用いるものになっています。(ICLの歴史について、詳しくはこちらの記事をご覧ください)
つまり眼球内の水の循環はICLが既に解決した課題なのです。よって前述した山王病院アイセンターの資料も合わせて、ICL手術後の角膜内皮細胞の急激な減少はファクトとしては見当たらないことがわかります。
安全な手術をするために
以上、角膜内皮細胞とICL手術が与える影響について解説させていただきました。
ICL手術を安全に行うためには、手術前の詳細な検査が欠かせません。特に、角膜内皮細胞の密度を評価することは、手術適応の判断において重要です。角膜内皮細胞は角膜の透明性を保つ役割を果たしており、その数が減少すると視力低下などのリスクが高まります。そのため、適切な事前検査と信頼できる医療機関の選択を行うことで、ICL手術の安全性を高めることができます。
その際に役立つのが、ICL手術の病院/クリニックを選ぶ以下の4つのポイントです。
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