
東大を卒業後、戦略コンサル・VCで勤務していた「チルbot」です!
皆さんは、何かを買ったり、サービスを選ぶ際にどのような基準で決めますか?
私の場合、まずはその商品/サービスの運営会社、そして業界全体の分析を行います。運営会社の経営状況や拡大状況を分析すると、表面的な商品/サービスからは一見して見えないリスクが見えてくるからです。
これは脱毛クリニックの検討では特に重要です。実は経営難に陥り破産/倒産した脱毛サロン/クリニックは数多く、先払いした脱毛サービスが受けられず、返金もされない最悪の状況に追い込まれてしまった被害者がたくさんいるのです。
今回は、美容脱毛サロン・ミュゼプラチナムについて、運営会社や事業の分析をしたいと思います。実は、国内最大の169店舗を展開する(2022年3月末時点)美容脱毛サロン・ミュゼプラチナムもかつて倒産騒動や経営難を報じられたことがあったのです。ビジネスの目から見てわかるミュゼを取り巻く暗雲とは一体何なのでしょうか?非常に示唆に溢れており、脱毛を考えている方であれば絶対に知っておいて損はないと断言します。
脱毛を検討している方はもちろん、ビジネスパーソンの方にも役立つ内容になっているはずです。
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はじめに|脱毛サロン選びには経営状況の安全性が最重要
2024年12月にアリシアクリニックが破産を申請したニュースは、脱毛業界に大きな衝撃をもたらしました。実は以前からもミュゼプラチナムやエタラビ、脱毛ラボなど、多くの脱毛サロンが経営難や破産をしています。こうした状況からもわかるように、脱毛サロン・クリニックを選ぶ際には「経営状況の安全性」をチェックすることが何より重要なのです。
本記事では、2015年に破産騒動が起こり、2016年からは5回も事業譲渡が行われ、非常に不安定な経営状況にあるミュゼプラチナムについて、その倒産騒動やビジネスの実態を詳しく解説していきたいと思います。
あわせて、近年の業界動向や安全な脱毛サロン選びのポイント、そして筆者が最も信頼できると考えるSBCメディカルグループの最大手ブランド湘南美容クリニックについてもご紹介します。さらに、過去の破産事例でも全額保証を受けられた実績があるMarriott Bonvoy アメリカン・エキスプレス・プレミアム・カードの活用法も解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。

全国225院に展開
2023年にゴリラクリニックを買収、2024年に上場を果たした国内最大手・SBCメディカルグループの最大ブランド。上場により経営状況の透明性とガバナンスが担保、突然の倒産リスクが極めて低い。
ミュゼプラチナムの倒産騒動が起こった理由
全国最大店舗数を誇る女性用脱毛サロン、ミュゼプラチナムは2015年に破産騒動が起こり、2016年から5回も事業譲渡を経た上で今もサービス運営を行なっています。さらに本記事を最初に執筆したのは2023年初頭ですが、当時筆者が以下のように予測していた通り、2023年以降でさらに3回の事業承継が行われました。
これはあくまで私の予測になりますが、ミュゼプラチナムは近い将来、再び事業譲渡されることになると考えています。競合が増える事業環境は厳しさを増す中で、「ミュゼ」と言う大きな武器とも言えるブランド力が抜本的な構造改革を妨げてしまうことでしょう(規模縮小の議論になっても「全国最大と言う強みを捨ててはいけない」となる気がするのです)。
2023年の本記事より
そんなミュゼプラチナムの倒産騒動が起こった理由は以下の通りだと推察しています。
- 爆弾を抱えた自転車操業による急拡大
- 経営者の露出増加という悪いシグナル
- 遠い黒字化と2回の事業譲渡
簡潔には以上終了なのですが、今回の記事の目的は「皆さんが脱毛サロンやクリニックを選ぶときに身を守れるようになってもらうこと」です。そして、ミュゼでの脱毛には慎重になった方がいいと言うのが私の意見です。
自分ごととして理解を深めるために、脱毛サロンの倒産や閉店について詳しく説明したいと思います。
脱毛を含むエステティック業の倒産や閉店は多い
実は脱毛サロンやクリニックの倒産や閉店/閉業は非常に多いのです。
脱毛クリニック・サロンの倒産は全体的に増えている
2024年に東京商工リサーチが実施した「エステティック業倒産動向調査」によると、脱毛サロン・クリニックを含んだエステティック業の倒産は、2024年に99件で過去最多となっています。

同様の調査は2019年にも「2019年エステティック業倒産動向調査」として行われていますが、2019年に73件で過去最多となっていた倒産数はコロナ禍で一服したものの、2023年、2024年と過去最多を更新しています。

これはおそらく、コロナ禍における補助金や支援金により一時的に倒産が抑制されたものの、支援策の終了後に実態としてのビジネスが持続できず倒産が増加したことが要因と考えられます。
小規模な個人の脱毛サロンの倒産が増えている
そして2019年調査では、倒産したエステの負債総額は29億2,200万円でしたが、その内訳は負債1億円以上の大規模なものが5件、負債1億円未満の比較的小規模なものが68件で全体の9割以上となっており、小規模な個人サロンの倒産が進んでいることがわかります。
エステティックサロンは参入障壁が低く、個人経営の個人サロンが増えていますが、施術内容の差別化ができないため顧客獲得が難しく、顧客獲得に費やす広告費などがかさんで倒産してしまうパターンが増えているのです。
大規模な脱毛クリニックの倒産も大きな話題・社会問題に
近年では大規模クリニックの倒産も世の中を騒がせています。2024年12月に破産した医療脱毛サロン「アリシアクリニック」運営会社2社の倒産では、約10万人が被害を受けました。
また、「全身脱毛サロンC3」運営の株式会社ビューティースリー(2023年9月破産、負債80億円)の被害者(債権者)は約4万6,000人、「脱毛ラボ」運営の株式会社セドナエンタープライズ(2022年8月破産、負債60億円)は約3万人、「銀座カラー」運営の株式会社エム・シーネットワークスジャパン(2023年12月破産、負債58億5,700万円)は約10万人など、大型倒産で被害者の多さが目立ちます。
有名タレントなどを起用した脱毛サロンの施術契約を信頼し、多額の前払金を支払い、未施術分が残ったまま倒産してトラブルに発展しているのです。
脱毛サロン/クリニックの倒産の影響
脱毛サロンが破綻すると、顧客が前払いした施術代の返金は困難なケースが大半です。被害者は2023年〜2024年の2年超で少なくとも約27万人に達し、信販会社やクレジットカード会社との対応に追われる利用者も少なくありません。脱毛サービス自体に対する消費者の信頼感が低下し、業界全体への不信感が広がる結果となっています。
脱毛サロン/クリニックの撤退・閉店も増えている
そして倒産や破綻まで至らずとも、事業がうまくいかずに撤退/閉店してしまうケースも増えています。
特に最近では、元NEWSの手越祐也さんがプロデュースする「TEGOSHI BEAUTY SALON」だけでなく、俳優の新田真剣佑さんがプロデュースする「AmSALON」など、有名人・芸能人の人気や知名度を武器にした脱毛サロンやクリニックが増えていますが、軒並み撤退に追い込まれているのです。
脱毛サロン/クリニックのビジネスモデルの特徴
なぜ脱毛サロンやクリニックの倒産や撤退が相次いでいるのでしょうか?まずはその前提として、脱毛サロン/クリニックのビジネスモデルの特徴を理解することが重要です。
- 根本的な差別化が難しく参入障壁が低い
- 広告費を中心とした費用が先出する
- キャッシュは中長期的に回収する
- 黒字化まで時間がかかり中長期目線の経営が必要
これらの特徴については以下で詳しく解説しているのでぜひご覧ください。
根本的な差別化が難しく参入障壁が低い
脱毛サロン/クリニックのビジネスモデルの特徴の1つ目は、「根本的な差別化が難しく参入障壁が低い」です。
まず差別化については、多くのサロンやクリニックが提供する脱毛サービス(例えば、レーザー脱毛、光脱毛、ニードル脱毛)は、基本的に標準化された同じ技術に基づいており、機器についても最新のレーザー機器や光脱毛器が多くのサロンで採用されています。つまりサロンやクリニック間で提供する施術内容に大きな差異が生まれにくいのです。
さらに参入障壁については、大規模な設備投資や高額なライセンス費用が不要なため、比較的少ない資本で新規参入が可能で、小規模な個人サロンが次々と市場に出現しています。
これにより、脱毛サロン/クリニックはサービスの質や内容での差別化が難しく、広告投資による知名度競争や価格競争に陥りやすくなるのです。この点が2つ目の特徴に繋がっていきます。
広告費を中心とした費用が先出する
脱毛サロン/クリニックのビジネスモデルの特徴の2つ目は、「広告費を中心とした費用が先出する」です。
脱毛サロン/クリニックの運営に必要な費用としては主に以下のようなものがありますが、このうち大きな割合を占め、かつ重要度が高いものが「広告費」です。
- 広告費
- 店舗賃料
- リース料(脱毛機器を借りている場合)、または減価償却費(脱毛機器を購入した場合)
- 人件費
脱毛サロン・クリニックを開業しただけでは当然お客さんは来てくれないので、広告やプロモーション、キャンペーンで認知を広げ、来客を促進する必要があります。こうした活動全般にかかる費用が広告費です。上記のように根本的な差別化が難しく競合も多い中で、各社が様々な広告や、割引クーポンなどのプロモーションを行っています。
当然ですが、広告費を用いた活動の結果、お客さんが来店・契約をしてくれないと収益は発生しません。そのため収益を得るよりも先に広告費や店舗賃料、リース料、人件費などの費用が必要となり、お客さんが来るまで永遠にその費用を支払い続けなければいけなくなります。
このように広告で獲得した顧客と契約し、多額の前払金を運転資金に充てる手法で事業を拡大している脱毛サロンも多いですが、契約数が鈍化すると、出店費用や広告費などが負担になり、前払金を返金できない状況に陥るのです。
キャッシュは中長期的に回収する
脱毛サロン/クリニックのビジネスモデルの特徴の3つ目は、「キャッシュは中長期的に回収する」というものです。
種類にもよりますが、脱毛には10万円以上の費用が必要となります。多くの人にとっては高額に感じられるでしょう。
光脱毛 (美容脱毛) | ニードル脱毛 (電気脱毛) | レーザー脱毛 | |
---|---|---|---|
処置 | 光で毛根にダメージを与える | 針を刺し電流で一本ずつ処理 | レーザー光で毛根を破壊する |
特徴 | 2000年代に登場した 最も新しい脱毛方法。 近年でも新しい手法が登場。 | 150年近い歴史を持つ脱毛方法で、 ダンディハウス・メンズTBCなど 歴史あるクリニックが主流 | 1980年代に登場した 比較的新しい脱毛方法。 費用は高額でお試しはない |
自己処理を減らすために 必要な通院数と費用 | 8〜10回 (8〜10万円) | 5〜6回 (15〜20万円) | 5〜6回 (7〜9万円) |
ツルツルにするために 必要な通院数と費用 | 〜25回 (20-22万円) | 〜15回 (25-35万円) | 〜13回 (13-18万円) |
そのため多くの脱毛サロン/クリニックは分割払いに対応しており、月々数千円から脱毛を受けられるプランも用意しています(4年間で48回分割払いものプランも多いです)。つまり脱毛サロン・クリニックは一度にまとまった現金収入を得る場合だけではなく、分割された金額を少しずつ回収する場合も多いということです。
例えば現金支払いのラーメン屋であれば、ラーメンを提供した瞬間に収益が発生して現金を回収することができますが、脱毛サロンの場合はゆっくり時間をかけて現金を回収しなければいけないのです(※ファクタリングサービスなどを使っている事業者も多いとは思いますが、いずれにせよキャッシュフローを圧迫することには変わりません)。
黒字化まで時間がかかり中長期的な経営が必要
脱毛サロン/クリニックのビジネスモデルの特徴の4つ目は、「黒字化まで時間がかかる」というものです。
上述したように、脱毛サロン/クリニックにはお客さんを呼ぶための費用が先に必要となり、その結果お客さんが脱毛サービスに契約してくれてもすぐに全額を回収できるわけではなく、現金を少しずつ回収していく形になります。
そのため、広告が成功してお客さんを呼び込めたからと言ってすぐにその利益が発生するわけではなく、中長期的に時間をかけて利益を回収していくようなモデルになるのです。結果として、中長期目線でのシミュレーションを組んで、売上や利益など目先の誘惑に負けずにコツコツと経営をしていく必要があると考えられます。
後述しますが、こうした中長期的な経営ができず、誘惑に負けて出店やプロモーションを急ぎ、キャッシュフローを圧迫してしまうことが脱毛サロン・クリニックの倒産の主な理由だと考えられます。
脱毛サロン/クリニックのリスク/危険性
脱毛サロン/クリニックのビジネスモデルの特徴を踏まえ、倒産や撤退に直結するその中に潜んだリスクや危険性を説明したいと思います。
- 競争環境の激化
- 顧客の取り合いによる低価格競争、広告費の高騰
- 短期目線の経営によるキャッシュフローの圧迫
これらの特徴については以下で詳しく解説しているのでぜひご覧ください。
①競争環境の激化
脱毛サロン/クリニックのリスクの1つ目は「競争環境が激化していること」です。
最近では、ローランドさんなど有名人・芸能人が脱毛サロンのプロデュースを始めたりと、脱毛業界への新規参入が増えています。Youtubeなどで脱毛サロンの広告やキャンペーンを目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
当然その結果成功するかは別問題なのですが、以下のような理由から脱毛業界は参入障壁が比較的低いのです。
- 在庫不要で低リスク
- 人材育成が容易
- 多数乱戦の業界構造
- 脱毛器具・機械の低価格化
そして参入障壁が低いということは、参入する事業者が増える、つまり競合・ライバルが増えやすいということです。
脱毛に対するニーズは増えているものの、当然脱毛サロンやクリニックの数が増えれば、そのニーズを抱えているお客さんの取り合いになります。脱毛業界は、競合が多いレッドオーシャンの厳しい競争環境になりつつあるのです。
②顧客の取り合いによる低価格競争、広告費の高騰
脱毛サロン/クリニックのリスクの2つ目は「顧客の取り合いにより低価格競争や広告費の高騰が進んでいること」です。
脱毛業界の競争環境が激化しているということは伝えさせていただきましたが、そうした環境で脱毛サロンやクリニックはどうすれば良いのでしょうか?他よりも安くサービスを提供したり、大々的な広告やキャンペーンを実施して、自分達のサロンやクリニックに目をつけてもらうようにしなければいけません。
当然低価格化は収益を圧迫しますし、様々なサロンやクリニックが広告の希望を出すと、広告費が高騰するだけでなく、広告のパフォーマンス・効果も悪化してしまうはずです。
③短期目線の経営によるキャッシュフローの圧迫
脱毛サロン/クリニックのリスクの3つ目は「短期目線の経営によりキャッシュフローを圧迫してしまうこと」です。
解説した通り、脱毛サロン・クリニックは黒字化まで時間がかかるため中長期的な経営が必要です。お客さんが来てくれているからと言ってキャッシュをすぐに回収できるわけではなく、すぐに利益が出るわけでもありません。
しかし調子が良く見えると成功を急いでしまうのが人間の性です。
「もっと広告費を掛ければもっとお客さんが来てくれるのではないか」
「店舗を出店すればさらに規模拡大できるのではないか」
「ライバルが出てくる前にもっと投資をして絶対的なポジションを築くべきではないか」
こうした悪魔の囁きに負けてしまい、広告費の増加や急速な出店など規模拡大へと向かってしまいます。そしてそのための追加費用が短期的に必要になるものの、上手くいかずに収益やキャッシュを回収できず債務超過に陥ってしまうのです。これは脱毛サロンやクリニックだけでなく、あらゆるビジネスに共通する典型的な失敗パターンです。
そしてこうした誘惑はうまく行っている時に来るからこそ冷静な判断ができなくなってしまいます。「これだけお客さんが来ているのだから、広告費や店舗数を増やせばもっとうまくいくだろう」と考えてしまいがちなのです。
そのため私は、脱毛サロンやクリニックはきらびやかに見えますが、質実剛健な経営者の方が成功すると考えています。
ミュゼプラチナムの倒産騒動について
こうしたリスクや危険性から閉店・撤退に至ってしまった脱毛サロン/クリニックはいくつかありますが、そのうち代表的なものの1つは、最も著名な脱毛サロンの1つ・ミュゼプラチナムの倒産騒動です。
ミュゼプラチナムとは
「ミュゼプラチナム」は福島県発で全国展開する女性専門の美容脱毛サロンです。
トリンドル玲奈さん、池田エライザさん、宇垣美里さんなど著名なタレントをイメージキャラクターに起用し、2022年からは若手のモデルや女優として活躍する横田真悠さん、久間田琳加を起用してCMやプロモーションを行っています。皆さんも「ミュゼ」の名前は一度は聞いたり目にしたことはあるのではないでしょうか。
ミュゼプラチナムの倒産騒動の経緯
そんなミュゼプラチナムの倒産騒動については、事業譲渡や子会社化などビジネス的な観点が深く関わっています。わかりやすく図解するとともに、年表でまとめてみたので、読み物を読む感覚でご覧いただけたらと思っています。

ジンコーポレーションの事業としてスタート
それではまずはミュゼプラチナムの誕生から見ていきましょう。2002年6月、有限会社ジンコーポレーションが設立され、翌年の2003年7月に美容脱毛専門サロン・ミュゼプラチナムの1号店がオープンし、ミュゼの歴史は始まりました。
その後順調に成長を続け、2010年12月には100店舗を突破し、会員数も51万人を突破します。
トリンドル玲奈のCMで急成長、のはずだった
そして2011年には女優のトリンドル玲奈さんを起用し、テレビCM、電車内広告など大々的なキャンペーンを行います。これによって更なる成長を見せ、全国約190店舗、会員数270万人、2014年の売上高は386億円にまで拡大します。
ジンコーポレーションの社長・高橋仁氏は2010年には「すべては女性のキレイのために」という書籍も出版し、2011年には競馬の馬主にもなり「ミュゼエイリアン」「ミュゼスルタン」など10数頭のオーナーになっていました。
予約が取れないことによる批判・解約が相次ぐ
こうしたキャンペーンや経営者の露出も相まって、ミュゼには予約が殺到します。しかしその増えた予約を受け切れるだけの店舗数やスタッフが整っておらず、「ミュゼは予約ができない」という批判や苦情が相次いでしまったのです。
これは新規顧客だけでなく、すでに契約した既存顧客も同じでした。「お金を払ったのに予約ができないなら解約しよう」と解約希望者が殺到したのです。2014年の1月には3,000件台だった解約数は、6月には7,000件にまで膨らんでいました。
多額の未払い金により水面化で電通とトラブルに
こうした状況ではあったものの、冠スポンサーとしてゴルフトーナメント「ミュゼプラチナム」を主催するなど大盤振る舞いは続いていたようです。しかしこうした解約が原因で、ジンコーポレーションはなんとあの大手広告代理店・電通に対してトラブルを起こしてしまっていたことが後ほど明らかになりました。
2015年の4月末に支払うはずだった残債7億円を5月末へ、5月末の13億円を6月へと立て続けに繰り越したものの、6月末の残債16億円のうち4億円しか支払うことができなかったのです。そして7月末の残債は24億円にものぼり、電通の経営陣が早期返済と取引停止を通告する事態にも発展してしまったのです。
広告費をかけて顧客を獲得し、顧客から得たお金で広告を打つという自転車操業が完全に逆流してしまったのでしょう。
経営難が明るみに
そんな中で、新潮社の情報サイト「フォーサイト」でミュゼに関する記事が掲載されました。
- 「医師法違反」の声もある「脱毛エステ」疑惑の商法(5月21日)
- 「脱毛エステ最大手」に浮上した「経営危機説」「健康被害隠蔽」(6月19日)
ミュゼの内部情報から、解約数の増加による返金の先延ばし、さらにはボーナスの見送りや社員旅行の中止、経営難を疑われる問題が指摘されたのです。そして8月25日には「脱毛エステ最大手」ついに「経営破たん」: 刑事事件に発展も」という記事が掲載され、Yahoo!ニュースなどのネットニュースを経由して拡散し、経営難が明らかになりました。
2015年9月には代表の高橋仁さんが所有する競走馬のほとんどが名義変更されていることも発覚しました。5月にはミュゼエイリアン・ミュゼスルタンが日本ダービーに出走し、馬主資格取得からわずか4年で日本ダービー出走が話題になっていただけに、世の中の栄枯盛衰・諸行無常を感じます。
そして2015年10月、ジンコーポレーションは資金繰りの悪化によって借金の返済が滞り、主要な取引銀行との間で任意整理の協議に入ったことを明らかにしたのです。
事業譲渡を経て、株式会社RVH傘下へ
経営難を受けて、ジンコーポレーションは2015年11月、グラフィックボードの製造やゲーム開発などを手掛ける株式会社RVHによる支援を受けることを発表します。そしてミュゼは、まずはジンコーポレーションの子会社・株式会社ミュゼプラチナムへ事業譲渡され、続いて株式会社ミュゼプラチナムがRVHの子会社になることで、ミュゼはRVHの事業になったのです。
エタラビ・ミスプレミアムから事業譲渡
物語はまだまだ終わりません。株式会社RVH傘下の事業になったミュゼプラチナムですが、2017年には脱毛エステサロン「エターナルラビリンス」「ミスプレミアム」を運営していたグロワール・ブリエ東京が経営難に陥ったことを受け、店舗などの資産や事業の譲渡を受けることとなります。
そしてその後、グロワール・ブリエ東京は破産手続きを開始。事業譲渡によって経営難を免れたミュゼプラチナムは、同じく経営難に陥っていたエターナルラビリンス・ミスプレミアムを統合する形になったのです。エタラビの倒産についてはこちらの記事で詳しく解説しているのでよかったらご覧ください。
またRVHは2017年の2月には、「たかの友梨ビューティクリニック」の運営会社であり、たかの友梨氏が代表を務める不二ビューティーを100%子会社化し、ミュゼ、たかの友梨ビューティクリニックの2つの脱毛ブランドを保有します。
事業譲渡により株式会社G.Pホールディング傘下へ
しかし、これでも物語は終わりませんでした。2020年2月、RVHがミュゼプラチナムと不二ビューティーの2社をたかの友梨氏が筆頭株主であるG.Pホールディングに売却し、ミュゼプラチナムはG.Pホールディングの完全子会社となったのです。
RVHは2019年3月期の連結売上高が587億4000万円でしたが、このうちミュゼプラチナムが393億5700万円(営業損益6億5000万円)、不二ビューティが104億5000万円(営業損益2億700万円)を占めていました。美容エステティック業界からの撤退を図り、ミュゼプラチナムを譲渡価格21億円2300万円で、不二ビューティーを57億3100万円で売却することとなります。
営業損益が発生していることから分かるように、売上こそ数百億円の巨大事業ではあったものの黒字化が難しく、RVHとして手放す決断をしたものと推察されます。
船井電機参加へ
2023年にはさらに親会社が変わることとなり、2023年4月に国内外で知名度が高い家電メーカー・船井電機の傘下となりました。脱毛器の製造販売などで相乗効果を狙ったようですが、結果としては2024年に買収からわずか1年で株式を手放すこととなります。
船井電機傘下では、「ミュゼプラチナム」の運営会社は、脱毛サロン「キレイモ」などの運営も他社から承継しましたが、資金繰りが追い付かず、広告費の未払いが発生しました。未払いの広告費については船井電機の親会社である船井電機・ホールディングスが連帯保証しました。しかし、船井電機・ホールディングスが保有する船井電機の株式に対して仮差押が申し立てられ、2024年5月に仮差押されることになるのです。
KOC・JAPAN株式会社による買収
2024年4月、KOC・JAPAN株式会社が当時のミュゼプラチナムの親会社であるミュゼプラチナシステムズ合同会社を買収しました。KOC・JAPAN株式会社は、香港や東南アジアで事業を展開するKOC・H.K.(飲食天王有限公司)を親会社に持ち、飲食店のクーポン販売を中心としたビジネスモデルを展開しています。しかし、同社は買収後わずか1カ月あまりでミュゼプラチナシステムズ合同会社の代表社員から退任し、投資助言を行う株式会社TNC ASSET MANAGEMENTが新たな代表社員となりました
株式会社MITへの商号変更と事業承継
2024年5月20日、ミュゼプラチナシステムズ合同会社は商号を株式会社MITに変更し、会社分割により新設した株式会社ミュゼプラチナムに事業を承継しました。さらに、同年9月2日には、株式会社ミュゼプラチナムが会社分割を行い、MPH株式会社を設立し、事業を引き継ぎました。ここまで来るともはや何が何だかわからなくなるカオスな状況です。
グローバルブリッジファンド合同会社の支援のもと経営再建へ
2024年9月、MPH株式会社はグローバルブリッジファンド合同会社(GBF社)の支援を受けて経営再建に取り組むこととなりました。GBF社は、企業再生や投資を専門とするプライベートエクイティファンドであり、同年10月29日のプレスリリースでMPH株式会社の事業支援に正式に取り組むことを表明しています。
これらの度重なる事業譲渡と経営体制の変更の背景には、ミュゼプラチナムの資金繰りの悪化や広告費の未払いなどの問題がありました。特に、船井電機傘下での運営時には、脱毛サロン「キレイモ」などの運営も他社から承継しましたが、資金繰りが追い付かず、広告費の未払いが発生しました。未払いの広告費については船井電機の親会社である船井電機・ホールディングスが連帯保証しましたが、船井電機・ホールディングスが保有する船井電機の株式に対して仮差押が申し立てられ、2024年5月に仮差押される事態となりました。
現在、MPH株式会社はGBF社の支援のもと、経営再建に取り組んでいます。しかし、度重なる経営体制の変更や資金繰りの問題など、課題は依然として残っています。そのためミュゼプラチナムには今後とも様々な問題が発生すると考えられ、この変遷もさらなる更新が必要になると予想しております。
まとめ:ミュゼプラチナムは5回も事業売却対象となっている
以上、ミュゼプラチナムの歴史をまとめると以下の通りです。
実はミュゼプラチナムは5回の事業売却を経た上で、現在も事業を営んでいると言うことがわかります。
年 | 出来事 |
---|---|
2002年6月 | 有限会社ジンコーポレーション設立 |
2003年7月 | 美容脱毛専門サロン ミュゼプラチナム1号店を福島県郡山市にオープン |
2010年12月 | 美容脱毛専門サロン ミュゼプラチナム 100店舗突破 |
2011年 | ・トリンドル玲奈を起用したテレビCMを開始 ・知名度が飛躍的に向上するも殺到した予約を受けきれず、予約が取れないと批判が集まる |
2015年5月 | 冠スポンサーとしてゴルフトーナメント「ミュゼプラチナム」を主催 |
2015年12月 | 売却① ・借金の返済が滞り運営会社のジンコーポレーションが任意整理へ ・ジンコーポレーションの子会社、株式会社ミュゼプラチナムに事業譲渡 |
2016年1月 | ・株式交換により、株式会社ミュゼプラチナムが株式会社RVHの100%子会社へ |
2017年3月 | ・エタラビ、ミスプレミアムから事業譲渡を受けて統合 |
2020年2月 | 売却② ・株式会社G.Pホールディングへ事業譲渡 |
2023年4月 | 売却③ ・船井電機の傘下に入る |
2024年4月 | 売却④ ・KOC・JAPAN株式会社が親会社を買収 |
2024年5月 | ・新設会社の株式会社ミュゼプラチナムが事業を引き継ぐも、すぐに新設分割で事業を譲渡 |
2024年9月 | 売却⑤ ・MPH株式会社が新たな運営会社となり、グローバルブリッジファンド合同会社の支援を受ける |
ミュゼプラチナムの倒産騒動の理由と原因
こうしたミュゼプラチナムの倒産騒動は非常に示唆に溢れており、脱毛サロンを選ぶ際にも大きな参考になります。倒産騒動の理由について、私は以下のように分析しています。
- 急拡大の実態は爆弾を抱える自転車操業
- 経営者の露出増加は悪いシグナル
- 5回の事業譲渡から分かる黒字化の難しさ
急拡大の実態は爆弾を抱える自転車操業
まず1つ目は「急拡大の実態は爆弾を抱える自転車操業だった」と言うものです。
ミュゼ含む脱毛サロンは料金を分割払いしていることが多いはずです。つまり施術が全て完了しないと全ての料金は支払われず、本来は施術回数に応じて前受金をその都度計上すべきですが、ミュゼは契約時に一括売上計上していたのです。
簡単に説明すると、例えば20万円の脱毛サービスを月1万円の分割払いで100人が申し込んだとすると、初月は1万円×100人で100万円の現金収入が得られることになります(単純化のため入金サイトは無視します)。一方でミュゼは、20万円×100人で2,000万円の収入が発生したと一括計上してしまっていたのです。
そしてその売上を原資にして更なる広告を打ち、集客した顧客から得た収益が回収できていないうちにまた更なる広告を、、、と完全に自転車操業のような形で、錬金術とも言える無理のある規模拡大をしていたのだと推察されます。
一方で予約を受け切れるだけの店舗数やスタッフが整っておらず、2013年頃からは「ミュゼは予約ができない」という批判や苦情が相次いで解約が殺到してしまったことは説明した通りです。そうなると規模拡大を前提にしたサイクルは一気に逆流してしまうので、瞬く間に経営破綻寸前まで追い込まれてしまったのでしょう。
これはスタートアップ企業でもよく起こる、典型的な失敗例の1つです(英会話教室のNOVAも同様の理由で経営破綻しています)。
身の丈に合っていない急拡大を続ける会社は危険なので、急な広告露出などに注意した方がいい
経営者の露出増加は悪いシグナル
2つ目は「経営者の露出増加は悪いシグナル」と言うことです。
ジンコーポレーションの社長・高橋仁氏は、書籍の出版や競走馬の購入など華やかな生活を送っており、メディアへの露出も増えていました。ゴルフトーナメント「ミュゼプラチナム」も主催しており、ミュゼのプロモーションといえば体はいいですが、若年女性層という脱毛ターゲットからするとゴルフトーナメントに協賛する合理性は感じられません。
そんな高橋社長は、会社の資金の指摘流用や、女性トラブルなどが後に明るみになることとなります。
高橋社長は会社から個人で借入金があり、その額は3〜4億円と言われている。その使徒がわからないと財務担当部門でも頭を抱えている(同社関係者)
新潮社 Foresight(フォーサイト)
社長の出張で、他の同行者は別なホテルなのに彼女は社長と同じホテルに宿泊することもある。彼女は渋谷区の高級賃貸マンションに住んでいますが、家賃は60万以上。普通のOLが払える額ではない。(同社関係者)
新潮社 Foresight(フォーサイト)
「イタリアには、同社が使用している脱毛機器(DEKA社製)の本社があるので行くのも分かるが、アメリカはうちの支店もないし行く理由が分からない。カジノにはまっているからだと幹部が嘆いていました」(同)
新潮社 Foresight(フォーサイト)
最近はスタートアップの社長などでよく見られる例ですが、基本的には「事業以外で経営者の単独露出が増えているのは、間違いなく悪いシグナル」です。最近はTwitterなどで容易に発信できるようになったこともあり、その判断がつきやすくなったと思っています。その会社のサービスを受ける際、転職を考える際、取引を行う際は、少しSNSを調べたりググったりしてみるだけで、ある程度フィルタリングができるのでおすすめです。
事業に関係ない経営者の個人露出が増えている会社、その商品やサービスには注意した方がいい
5回の事業譲渡から分かる黒字化の難しさ
そして3つ目は、「5回の事業譲渡から分かる黒字化の難しさ」と言う問題をミュゼは今も孕んでいると言うことです。
説明した通り、ミュゼは「ジンコーポレーション→RVH」、「RVH→G.Pホールディング」「G.Pホールディング→船井電機」「船井電機→KOC・JAPAN株式会社」「KOC・JAPAN株式会社→MPH株式会社」と5回事業譲渡をされています。そして1回目は事実上の経営破綻、2回目は売上は400億円近いものの利益は赤字で営業損益6億5000万円という状態でした。
つまり、1回だけでなく5回も経営難による事業譲渡に至ってしまっていると言うことです。競合の脱毛サロンが増える中で、全国最大の店舗数維持に必要な固定費や、ブランド維持に必要な巨額のプロモーション費用が足を引っ張っていると考えられます。これは構造的な課題であり、何度事業譲渡を経ても根本的な課題は解決されないでしょう。
これはあくまで私の予測になりますが、ミュゼプラチナムは近い将来、再び事業譲渡されることになると考えています。競合が増える事業環境は厳しさを増す中で、「ミュゼ」と言う大きな武器とも言えるブランド力が抜本的な構造改革を妨げてしまうことでしょう(規模縮小の議論になっても「全国最大と言う強みを捨ててはいけない」となる気がするのです)。
そのためミュゼプラチナムでは脱毛サービスを受けない方が良いと言うのが私の意見です。
二度あることは三度ある、倒産騒動や事業譲渡など悪いシグナルがあるサービスには注意した方がいい
ミュゼプラチナムの倒産騒動で返金はされた?
ミュゼプラチナムの倒産騒動に際し、顧客が支払った料金の返金対応について気になる方も多いと思います。ミュゼプラチナムでは、2006年から解約時の返金制度を導入しており、現在も所定の条件を満たせば返金が可能です。
- 主な返金条件:
- 「両ワキ脱毛完了コース」:契約日から1年以内であれば、施術を受けていても全額返金の対象となります。
- その他のコースやプラン:最終来店から2年以内であれば、返金の対象となります。
- 返金額の計算方法:
- 施術を一度も受けていない場合:全額返金されます。
- 施術を受けた場合:総額から、1回分の金額×施術回数を差し引いた金額が返金されます。
2015年の破産騒動時には、約240万人の会員への返金が行われないのではないかと、NOVAに続く社会問題になるのではと懸念されていました。しかし最終的には倒産せずに事業譲渡されたため、返金手続きは継続して行われていたと考えられます。
一方で、脱毛サロンが倒産した場合、前払い金の返金が困難になるケースが多いです。例えば2024年11月に経営破綻した脱毛サロン「Be・Escort」を運営するセピアプロミクスでは、前払い金の返金が「極めて困難」とされています。そのため、契約前に返金制度や支払い方法を十分に確認し、信頼できるサロンを選ぶことが重要です。
通っている脱毛サロンが倒産したときに返金ができるか、支払い停止ができるかなどの対応についてはこちらの記事で解説しているので、脱毛を検討している方はぜひみていただけたらと思っています。
倒産の危険がある脱毛サロン・クリニックは絶対に選んではいけない!
このように、万が一通っている脱毛サロンが潰れる・破産する・倒産するようなことがあった場合には、返金もされず、サービスも受けられないことが一般的です。
実際に、2024年12月に医療脱毛大手の「アリシアクリニック」を運営する医療法人社団美実会が破産を申請し、約9万1,800人の利用者に影響を及ぼしました。また、2023年には「銀座カラー」を運営するエム・シーネットワークスジャパンが破産し、約10万人の利用者が被害を受けました。
過去にはエタラビや脱毛ラボが倒産した際には、弁護士を通じて集団訴訟を検討する方もいたようですが、そもそもその手間暇は果てしなく、結局は泣き寝入りになってしまうことが多いはずです。
そのため、私は脱毛を検討している方には「倒産や破産のリスクがないサロンやクリニックを選ぶこと」を他のどんなことよりも大切にしてほしいと考えています。これは実際に世の中で起こった事実なのです。
【筆者おすすめ】最も信頼できるSBCメディカルグループとは?
SBCメディカルグループは、2023年にゴリラクリニックを買収した名実ともに国内最大規模の美容医療法人です。そしてグループ各クリニックの中でも、SBCメディカルグループの本体・湘南美容クリニックは業界最大級の規模を誇ります。
- 全国120院以上を展開する大手グループ
- 年間来院数は500万人超(国内最大規模)
- 多角的な事業展開(美容医療のほか、AGA治療・歯科・婦人科など)
- 大手ゆえに資金力があり、倒産リスクが低い
実際、2024年末のアリシアクリニック破産のように、中堅の脱毛クリニックでも経営が立ち行かなくなるケースはあり得ます。一方、巨大資本を背景に全国展開しているクリニックは、仮に一部院が赤字になってもグループ全体でリスクを吸収できる体制が整っていることが多いです。
「絶対に潰れない」クリニックは存在しないものの、SBCメディカルグループは業界内でもトップクラスの経営規模を誇るため、経営破綻リスクをより小さくしたい方におすすめです。
まとめ
ミュゼプラチナムの破産騒動について、その理由や原因を説明させていただきました。
こうしてビジネス的な側面から見てみると、「事業譲渡を繰り返している脱毛サロンは選ばない方が良い」など新しい側面が見えてくるのではないでしょうか。他のポイントも含めて脱毛を検討している方に向けた選び方や基準はこちらの記事で解説しているので、ぜひご覧ください!