私は、どんな物事に取り組む際も、その物事に関する分析・考察を行い、判断の基準や選び方の仮説を構築します。それによって、その物事について根拠を持って判断・選択できると考えているからです。
それは2021年に受けた歯科矯正についても例外ではなく、歯科矯正そのものの業界や市場、その中のプレイヤーについても分析を行いました。
日本発のマウスピース歯科矯正の新星・キレイラインを提供するSheepMedicalグループの企業分析、今後の将来性予測を紹介したいと思います。
キレイラインの概要
キレイラインは、日本発で10ヶ国に展開するSheepMedicalグループが展開する通院型マウスピース矯正ブランドです。
SheepMedicalグループは、前身となる株式会社デンタルアシストが松本直純氏によって2017年3月に立ち上げられました。松本氏は医師免許を取得後、美容外科・医療関連脱毛クリニックの設立に携わり、その後株式会社デンタルアシストを設立した形となります。
キレイラインのマウスピースは国家資格保有歯科技工士が日本国内で製造しており、海外発の他ブランドと比べた際の特徴と言えるでしょう。
キレイラインのサービス内容
キレイラインのサービス内容としては、以下のようにドクターから提供されたデータをもとにキレイラインが治療計画の立案やマウスピース設計を行い、それを元にしてドクターが治療を行っていく形になります。
- 診察・歯型のスキャン:ドクターが実施
- 治療計画立案:ドクターから提供されたデータを元にキレイラインが実施
- マウスピース設計:ドクターから提供されたデータを元にキレイラインが実施
- マウスピース製造:3Dプリンターを用いてキレイラインが製造
- マウスピースを用いた治療:ドクターが実施
ホームページによると、キレイラインは導入時にクリニックが初期費用を払う必要がないとのことです。クリアコレクトが強みにしているであろう初期コストの小ささをより突き詰めて、独自のポジショニングを築いていると考えられます。
キレイラインの沿革・歴史
キレイラインは、運営会社が2017年に設立された比較的新しいサービスです。インビザラインが保有していたマウスピース矯正に関する特許が2018年に切れたタイミングでマウスピース矯正市場に参入したものと推察されます。
それからは5年程度で国内で10万人の症例数を超え、海外展開も進めるなど好調に事業を拡大しています。やはりインビザラインの特許の存在が、いかにマウスピース矯正業界の新規参入を阻んでいたかということかもしれません、
年 | 沿革 |
---|---|
2017年 | 松本直純氏によって前身となる株式会社デンタルアシストが設立、最初のクリアアライナーの製造を受託 |
2018年 | 初の3Dプリンターを導入、それをきっかけに事業が拡大 |
2019年 | ベトナムに子会社を設立、東京大学との共同研究を開始 |
2021年 | 中国、タイ、フィリピン、インドなどに子会社を設立し本格的な海外展開へ |
2022年 | 3月時点で累計症例数10万人を突破 |
キレイラインのビジネスモデル
キレイラインのビジネスモデルを図解すると以下の通りです(あくまで筆者が分析したものです)。
提携している歯医者がスキャン装置などを用いて患者の歯形を取り、そのスキャンデータや写真をキレイラインに送ると、治療計画やマウスピースをキレイラインが提供してくれると言うものです。
キレイラインの歯科医院向けホームページを見ると、導入コストが0円であり、導入後もずっと0円であることが記載されています。それでは一体キレイラインは一体どのようにして収益を上げているのでしょうか?
私は恐らく、キレイラインは利用者がキレイラインのマウスピース矯正を契約すると、その売上の一部が割り当てられるリベニューシェアモデルなのではないかと推察しています。これによってキレイラインに契約しない限り歯科医院は一切リスクを負わなくて良いため、歯科医院側からすると導入しない理由がなく、導入が円滑に進むはずです。
マウスピース歯科矯正の事業者にとっての戦略は、市場を独占していた先行者のインビザラインが築いた歯科医院との関係をいかに切り崩すかがポイントになります。それにあたってリベニューシェアモデルは非常に有効だと考えられるのです。
キレイラインの強み・独自性
キレイラインの強み・独自性としては以下が挙げられると考えています。
- リスクゼロで導入できる
- 国内ブランドとしての安心感
- インプラント事業も含めた歯医者とのネットワーク
1つずつ説明していきましょう。
リスクゼロで導入できる
まずキレイラインの強み・独自性の1つ目は、インビザラインよりも安い利用料金で導入可能と考えらえる点です。前述したように、クリアコレクトのマウスピース矯正は自社スキャン装置でなくても導入可能です。そのため普通に考えると、ワンストップであらゆる器具やソフトウェアを提供しているインビザラインよりも安い料金で導入可能であろうはずです。
スキャナーはSTLと呼ばれる立体画像データの保存形式に対応しているスキャナであれば対応可とのことなので、ひょっとするとインビザラインのスキャン装置を用いても導入可能かもしれないと推察されます。それであれば、インビザラインから利用料金が安いクリアコレクトにスイッチングする歯医者は増えるのではないでしょうか。
国内ブランドとしての安心感
キレイラインの強み・独自性の2つ目は、マウスピース矯正以外も含めて事業ポートフォリオが組めていることです。クリアコレクトは世界シェアNo1のインプラント事業を持つストローマングループに買収された経緯から、ストローマングループの事業はマウスピース矯正事業だけではありません。
一方でクリアコレクトの運営会社・Align Technologyはマウスピース矯正が中核事業のため、マウスピース矯正事業が低成長になると会社の成長が止まってしまいます。実際に最近はマイナス成長にすらなっているため、どうしても経営は短期目線にならざるを得ず、それが中長期的に事業に悪影響をもたらす可能性は十分あると考えています(料金の値上げなど)。
インプラント事業も含めた歯医者とのネットワーク
キレイラインの強み・独自性の3つ目は、インプラント事業も含めた歯医者とのネットワークがあることです。上述したようにクリアコレクトの運営会社・ストローマングループは世界No1シェアのインプラント事業を営んでいます。そのためインプラントを基にして世界中の歯医者とネットワークがあるであろうため、そのネットワークを活用してマウスピース矯正も迅速に導入ができているのではないでしょうか。
ビジネス的には、こうした顧客との関係はネットワーク、またはチャネルという言葉で表されます。
キレイラインの弱み・脅威
一方で、キレイラインの弱みとしては以下が挙げられると考えています。
- マウスピースの精密性
- 新しい矯正のあり方(オンライン型マウスピース矯正)の登場
1つずつ説明していきましょう。
マウスピースの精密性
まずキレイラインの弱み・脅威の1つ目は、マウスピースの緻密性です。クリアコレクトはドクター顔や歯の写真、レントゲン撮影、デジタルスキャンや歯型を採って、これらのデータを提出することでマウスピースの製作を行います。
そして矯正が進むと歯型を取って模型を技工所へ送り、新しいマウスピースを製造することを繰り返します。こうして歯の動きを確認しながら治療を進めてゆくのです。つまりあくまで歯形の模型に基づいてマウスピースが製造されるのです。
対してインビザラインでは、自社のスキャン器具によってスキャンされた歯の構造が、3Dシミュレーションソフトによって再現されます。その内容がCAD/CAMを用いた光造形技術によって、アライナー(マウスピース)に正確に再現されるのです。
結果としてマウスピースの緻密性ではインビザラインに軍配が上がり、クリアライナーは前歯だけを動かす部分矯正に使用されることが多いようです。
新しい矯正のあり方(オンライン型マウスピース矯正)の登場
キレイラインの弱み・脅威の2つ目は、オンライン型マウスピース矯正が登場していることです。
オンライン型マウスピース矯正とは、来院不要、又は初回のみの来院で、LINEアプリなどを通じて矯正の進捗管理やサポート、相談受付を行うマウスピース矯正です。海外では上場もしている「Smile Direct Club」、日本では「Oh my teeth」「hanaravi」などのスタートアップ企業が続々と参入しています。
事業者側としてはドクターの稼働が低くなって費用を抑えられ、利用者としては来院の手間が不要で低価格でマウスピース矯正が受けられるという、双方にメリットがあるモデルです。こうした新規参入にどう対応するかは間違いなく経営のいちイシューになっていることでしょう。
キレイラインの今後・将来性予測
- キレイラインが対象とする歯科矯正の市場規模は拡大
- 提携クリニックは順調に拡大、業績も併せて拡大と見込まれる
- 海外展開などの積極的な投資が成功するか
キレイラインが対象とする歯科矯正の市場規模は拡大
まず市場全体について、キレイラインが対象とする歯科矯正の市場規模は拡大すると考えています。
人々の美容意識の増加、経済成長および歯科矯正の低下価格化によるターゲット層の拡大が主な理由です。特にグローバルに事業を展開するクリアコレクトにとっては、発展途上国の経済成長によって歯科矯正が広まり市場の裾野がゆっくりと、しかし確実に拡大することが予測されます。
提携クリニックは順調に拡大、業績も併せて拡大と見込まれる
市場全体は緩やかに拡大すると見込まれる中で、キレイライン自体の業績はどのように予測されるでしょうか。
キレイラインは株式を公開していないので決算資料などのファクトはないのですが、提携クリニックの数からその業績の成長を推察することが可能です。以下の画像は2021年4月に公開されたプレスリリースで、提携クリニックが国内40院を突破したことが示されていますが、2022年12月現在では全国123院と提携していることがホームページで示されています。
基本的には規模拡大は順調な成長のシグナルであるため、国内市場ではどんどん規模拡大しているのではないかと思います。
海外展開などの積極的な投資が成功するかが鍵
一方で、国内での規模拡大、そして2021年から本格化させた海外展開などの積極的な投資は当然リスクも伴います。
正直サービス開始から4年で、メディカル業界で海外展開をするのはなかなかのスピード感だと思います。当然国内市場で地道に事業を営むこともできると思うのですが、果敢に海外展開してより大きな成功を目指す経営姿勢は素晴らしいなと思いました。一方で、もしもそれが失敗してしまったら全てが逆回転してしまうので、この積極投資の成否に注目したいところです。
私個人としては、飲食チェーンやサロンなどの店舗型ビジネスとは違い、キレイライン自体が店舗やスタッフを抱えるわけではないので、もし失敗してしまったとしてもリスクは限定的ではないかと考えています。日本発で海外にも打って出るキレイライン、日本人として応援しながら今後を見守りたいと思います。
まとめ
以上、キレイライン、そして運営会社のSheepMedicalグループについて企業分析をさせていただきました。
歯科矯正を検討している方だけでなく、何事も分析・考察することの面白みが伝わっていたら嬉しいです!